父の会社へ

父は、仕事に関することも、病気に関しても、愚痴や文句を一切言わない人だった。
疲れたとか、辛いとか、痛いとか、父の口からは一度も聞いたことがない。
周りに心配や迷惑をかけまいと、全て自分で背負い込んでしまう人。

父の死後、とにかく会社をこのまま放っておくわけにはいかないと、葬儀もまだ終わらないうちに社員のHさんに連絡を取り、家族で会社に行ってみることにした。
弁護士さんに相談してからの方が良いかもしれないと思ったが、約束の日は まだ少し先だったので仕方がない。

従業員は父を含めて５人の小さな事務所だった。驚いたことに社内には誰もおらず、Hさんに話を聞いたところ、父以外はアルバイトのような形態で働いており、父が１人で全てをやり繰りしていたのだという。

食品販売業だったのだが、Hさんの話によると、経理補助のパートの女性が１人。後の３人は配達を手伝っていただけで、会社の内部のことについては全くわからないとのことだった。

まずは仕入れ先に連絡をして下さいと言われたので、何がなんだかわからないまま電話をかけた。